1年間の道程で導き出された答えは1つ:『しょうこセンセイ!』38話

一難去ってまた一難、が直近数話に渡り連続してきた本作『しょうこセンセイ!』。
語るポイントは多々ありますが、今回はさっそく本題へ。

拡大する勘違い

しょうこセンセイを研究所に呼び戻すべく、はるばる日本へやってきたサクラバ所長の直談判(?)。
その騒動の裏で矢野さんを起点として発生した勘違いは、「海外への異動」として生徒たちや学校関係者の間に広まっていきました。

それに対し、思い着いた側から意見を出す佐々木さんと四宮さん。
しょうこセンセイと己の欲望第一の意見を出す矢野さん。
話し合いを主導し意見の取り纏めを行う最上さんと加藤さん、音頭を取る坂下さん。
抱え込みがちなしょうこセンセイを慮る立花さんに結さん。
これまで卒なく描かれてきた変人もとい個性派な生徒たちからしょうこセンセイへの思いが、一連のシークエンスには溢れています。
1年も終盤に差し掛かっている中での、まさしく一致団結。1巻当初はもちろん、文化祭でも擦った揉んだあったクラスが、ここまで一丸になろうとは。熱い展開だ。
個性の塊であるみんなも、しょうこセンセイに対し「自分たちの先生であってほしい」と思うのは同じなワケですね。
当のしょうこセンセイを蚊帳の外にして進んだ話とは言え、やはりその存在の大きさは間接的ながら存分に示されました。

しょうこセンセイはやっぱり先生!

ここで面白いのは、この一件が単に「教師の異動や転勤」という扱いで伝わっていること。
学校教諭の任免や人事異動は公立の学校において都道府県ないし市区町村の教育委員会(教委)が管轄であり、その単位を超える異動となれば教委の権限のみで行われる可能性は通常考えにくいモノです。
況んや校長は以ての外、教委の決定に際し意見を送る程度しかできません。
けれど、それでも。
生徒たちはもちろん、教員人事について了解し、この一件について「阻止する力はない」と諦観を匂わせた先生方すらも。
みんなが何かできることを始めようとする意思の下、事は教諭の異動として扱われ、水面下で進んでいきました。
その背景には(矢野さんが早とちりした影響もありますが)、やはり「しょうこセンセイは先生である」「だから一刻も早くしょうこセンセイを引き止めたい」という共通認識があってこそなのでしょう。
P32-1からは台詞なしの4コマが久しぶりに出てきましたね。みんなの結束を描くのに、もう言葉は不要でしょう。

最初期を思い返すと、本当に感慨深くなります。
まずはしっかり先生として見てもらおうとするところから始まったしょうこセンセイの奮闘により、その先生ぶりはこれほどまで板に付いていたのですから。

ところでこれ、話が伝播していく経緯を見るに、生徒たちと子供たちや松下村塾の面々・先生方・校長先生の三者で認識のズレがありそう(所長の直談判に同席した人物を除くと全容を把握しているのは校長先生くらい?)ですが……
噂レベルの広まり方でこの一件を知ったと思しき宮城先生が、しょうこセンセイ型アンドロイドなんていうぶっ飛んだ手段を講じてる辺りちょっとスゴい怖い

公開授業にて

そうして集まった嘆願書と署名、また事情を知っている井伊校長の尽力もあり、姿勢を軟化させたサクラバ所長。
P35-1からは、また台詞のない4コマ。1年近く先生として奮闘してきたしょうこセンセイの今を語るにも、言葉は不要ですね。教鞭を執るしょうこセンセイの愛嬌たっぷりな魅力は、読者もこれまで何よりたくさん見てきたところです。
サクラバ所長はその姿に胸を打たれ、先生として活躍するしょうこセンセイに納得して研究室へと戻っていきました。しょうこセンセイの先生ぶりに悶える姿は、何だか矢野さん立花さん辺りと仲良くなれそうな空気を感じたり。
そして肝心のしょうこセンセイ本人は、生徒たちへ言うことを言うようにもなれた……と思いきや、一仕事終えて睡魔に負ける辺り弱冠8歳の先生。
一難去ってまた一難、が続いてきたんだから無理もありませんね。しょうこセンセイ、お疲れさまでした。

活き活きと動き回る登場人物のみんな

さて……そんな『しょうこセンセイ!』、次回で一区切りですか。
素直に言えば、やはりしょうこセンセイたちが様々な経験を重ねていく様子を、まだまだ見ていきたかったと感じています(この辺に関しては記事がいくつあっても足りなくなるので、ひとまず置いておくとして)。

読者視点ではギャグとして、クスッときたり爆笑したりしてしまう出来事が、これまで幾度となく起こったのも事実。
一方でしょうこセンセイの登場人物は皆、本人たちなりに真摯に向き合ってそれぞれの問題を1つ1つ解決し、着実にステップアップしてきました。
各々が一本筋の通った性格と思考に基づいて活き活きと動き回り、結果読者に笑顔や癒やしをもたらす。
その点に関して右に出るモノはないと断言できるのが、『しょうこセンセイ!』です。

しょうこセンセイはかつて親心の本質を掴み切れていない面や、時に周囲が見えなくなるほど集中する癖があり、それらときっちり向き合う必要があるという学びを得たことがありました。
進行中の話題とあまり関係がないほうへ気を散らせがちなローゼス姐さんは、それだけ本人なりに広い視野で周囲を見ており、そのことがしょうこセンセイの学びに繋がったりもしました。
後先考えない単純明快すぎる思考をもったリベット視察官は、その分物事の本質を真っ直ぐ捉える一面をも垣間見せ、視察官ではなく旧友としてしょうこセンセイのいるべき場所を訴えました。
話数に対し非常に多くの登場人物がいながら、こういった一貫性は誰に対しても漏れなく認められます。だから、しょうこセンセイたちはこうして紡がれてきた世界でしっかりと生きているのが感じられるワケです。
加えて、11話で一端が描かれた相場さんの家族周りや、31話以前で断片的に描かれてきたしょうこセンセイたち3人の過去エピソードなどと言い、登場人物それぞれにある背景も必要十分な範囲で窺うことができました。
これまでの日常でみんなの歩んできた道程が何度となく心を動かす所以は、こういったディティールが読者に伝わっているからこそ。

1話から大切にされてきた、これら『しょうこセンセイ!』の魅力については、今話に至るまで全く同じことが言えます。それも、今まで散々言及してきた通り。
そしてその上で繰り広げられてきた「一難去ってまた一難」な展開は、物語の区切りを華やかにしてもくれるハズ。
一抹の寂しさと、話数を重ねる度積み上げられてきた期待を胸に、39話も座して待つこととします。

Written on April 19, 2021