『スローループ』23話から総括するこれまでの海凪家

「えっ、今回も特に粗があるワケじゃないですよね?」

いつものごとく12時きっかりに公開されたフォワードに掲載の、スローループ23話。それを読みながら「うーん……」と首を傾げていた際、同じくFUZでスローループを読んでいたTwitterのフォロワーさんからこんな反応が飛んできました。

うん。そうなんですよ。
現時点で粗があるワケじゃない
家族の物語として、海凪家の現在を描く面では今話も見どころたっぷりでした。

……ただ初見の段階から、(ひなたさんの時のような作中視点ではなく)一読者の視点で言い知れない不安を覚えたのは事実。
というワケでここは一度頭を冷やし、改めてこれまで海凪家が歩いてきた道程をブログ記事として総括することにします。

ひよりと小春(と恋ちゃん)

言わずもがなの姉妹であり主人公コンビ。
渓流釣りの一件を引き摺ってる感がひよりにはありありと出てますね。小春と一誠さんが口論になる中で1人言葉を詰まらせ焦るP168-5とP169-2や、同じくP169-4の「自分じゃ口出しできなさそう」みたいな表情。内向的だったひよりは、親バカの一面も覗かせていた信也さんとじゃ(仮に現在まで存命だったとしても)こんな衝突にはならなかっただろうしなあ。
一方の小春は無邪気と言うか子供っぽいと言うか……可愛いですが姉らしさは皆無。わくわくで寝れないとかも元より「わからずや」はお互いさまである

終盤でひよりが一誠さんを説得する時の言葉は、小春を姉妹として思いやる側面はもちろん、引っ込み思案だった自分からまた1つ脱却しようとする意気が多分に感じられます。
21話に引き続き今回もこれまでの変化が強く窺えますね。1巻の時とは大違いだ。

ところで海凪家の総括と銘打ちながらこの項に恋ちゃんを加えたのは、海凪姉妹の間柄に恋ちゃんの存在が大きく寄与している(家族個別の内情に踏み込まずとも一般論の範囲ではきっちり小春を諭す恋ちゃんの立ち位置が上手い)から……
だけではなく、小春が周囲を振り回すシナリオが3人の中でも「小春自身の願望で」「小春自身を中心とし」展開されているから。同じく恋ちゃんに助けを求めた7話と比較しても、この傾向はより強いと言えます。
1人釣りキャンプのことを冷静に考えるひよりが少し引っ込む他方で、小春が「恋ちゃんも行くんだから」と協力を無理強いし誘ったり、その小春に対し恋ちゃんが「そんなだから子供って言われんだよ」と圧したりする気安さには、3人揃って本当に気の置けない間柄になったなと感慨深くなるポイント。これも3話や4話、7話辺りとは偉い違いだ(特に小春が)。そして先のシーンの恋ちゃんがまた可愛くてしょうがない。

小春と一誠さん

当エピソードの要。
一誠さんの頑なさは渓流釣りが発端ではありましたが、それ以前の段階で尤もなモノです。そりゃ女の子だけ、しかも未成年で、おまけに宿泊と来れば釣りキャンプの提案を却下したくもなる。親が近くにいなかった14話なんかは一花さんが年上として保護者の役割を兼ねていたでしょうが、それもなさそうですし。まあそれはそれとしてやっぱり「わからずや」はお互いさまである(2回目)
加えて言えば、2話でひよりから「初めて会ったとき海に飛び込もうとしてましたけど」と聞かされていた辺りが影響し、改めて不安が強まっていたのもありそう。1話は言うに及ばず、また14話における一誠さんの談を踏まえても、恋ちゃんの「小春みたいな衝動的に動く娘」と言う指摘はまさにその通りと感じるほかない……

結果的に一誠さんはひよりの願いもあって了承するワケですが、その後「パパとはお出かけしないようになっていくのかなぁ……」と寂しげになる一誠さんは癒やしポイント。と同時に、折れた形のパパへ小春は今回もいい歳して抱きついたりするし、別に父子でお出かけしなくなるとは思えないのでツッコミポイントとも言えるかも。
12話でも2人でパンケーキやパフェを食べにいく際の逸話は「いつも」のことだと言われてたくらいなんですけどね。該当回における回想内の小春の姿からして、中学生になってからも2人での外出はあったものと思われます。

ひよりと一誠さん

母親譲りの快活さをもつ娘の突飛な計画を正面切ってきっぱりと制止する辺り、信也さんとはちょっとタイプが異なるであろう父親像の一誠さん。その差に加えて前述の理由もあってか、一誠さんに対し最初言葉が出なかったひよりですが、紆余曲折あって自立的な願望を言えるようになったのは間違いなく父と子の間柄に通じている部分でしょう。
更に特筆したいのは、そんなひよりに一誠さんから向けられた「ひよりちゃんの事も心配してる」という言葉。一家でテーブルを囲む中改めてこういう発言が飛び出してくる辺りでも、一誠さんが2人の父親である認識を実感としてもっているのが伝わります。2話はおろか6話でもまだまだそれどころじゃなかったもんなあ。
この2人が明確に見せた直接のやり取りはその6話以来ですが、まだまだ言葉少な気味(シーンもちょっと少なめ)で若干の壁を感じる中にも家族の絆は確かに育まれている……そう感じさせる描写としては充分。

一誠さんとひなたさん(と恋ママ)

こちらは20話における小春についての連絡以来、2人だけのやり取りだと14話で直接のやり取りが少し出てきた以来でしょうか。今回ようやく2人の仲睦まじい様子を垣間見られた印象があります。
天然っぽさのあるひなたさんから一誠さんへの描写はもちろん(お父さん呼びへの変化は一時的か恒常的なのか)、4人の中にいるとこれまでどこか一歩引いていたり堅さが残ったり……といった風にも見えた一誠さんが、高校生の時友達と旅行したことを語るひなたさんへ呆気に取られた様子を見せ、終盤ではそのひなたさんに「追い打ちかけないで」と嘆息。
てっきり2人の間にももうちょっと距離があるのかと思っていましたが、少なくともそれなりの夫婦らしさは感じます。指輪の件はまた別問題なのか……というかもしや前フリではなかったのか……

……と、ここまで書いたところでひなたさんと恋ママの電話が引っ掛かったので、恋ちゃんの時同様本項に追加。
ただ天然なだけでは当然なく、一誠さんと話し合う姿にも穏健派としての親らしさを備えるひなたさん。電話でのやり取りを噛み締める中で19話も思い出され、やはり表出していない内心がどこかにあるのではないかと感じてしまいます。
ひよりとひなたさんは揃って吉川母子に助けられているんですね。

ひなたさんと小春&ひより

それぞれどこか抜けたところがある3人。ひよりは今回も熟考する側でしたが、釣りキャンプ計画が「可決され」た時の小春とひなたさんは能天気っぽくも見える表情が親子らしさ満点。
子供っぽさも強い小春や『17わ そのご』でピュアさがだいぶ見えてしまったひよりに加えて、ひなたさんもうっかり追い打ちをかけるような天然ぶりですし……
一誠さんの気苦労は色々と耐えなさそう。

Q. ところで結局感じた不安って何だったの?

A.
こうして書き出してみると、さほど不安は大きくないのがだいぶ見えてきました。
気掛かりだと真っ先にふせったーでポストした、過去回との連携に関しても、不足は皆無と言っていいレベルです。

その辺りを差し引いた上で再度咀嚼してみると、実際の(作中視点でない)気掛かりは2つ。

1つはやはり、海凪家両親の描写が幾分控えめだった点。
小春とひよりが迂闊に触れられない両親側の事情があるのかと思いきや、そこから今回「実は割と仲良しですよー」といった描かれ方がなされたので、ちょっと戸惑うのは確かです。
何度も言うように、指輪の謎や「笑ってる顔しか見ない」ひなたさんに対するひよりの不安がある上、その辺りは巻を持ち越してもいるワケですから、円満さを強調するならそれはそれで予め(せめて小出しでも)やるとか、あるいは海凪家全体の関係性深化をもうちょっと端々で描くなどしてもらえるとありがたかった。
片方の主題として家族を据えている物語でもありますし、それこそサブタイになるほどの情報を放り込んできてもいるのですから、今後も同様になるべく欠かしてほしくはありません。今更半端はダメ、ゼッタイ。

2つ目は、エピソードの積み方に疑問が残る点。
客観的に見て重要なのは寧ろこちらのほうで、再三姉妹以外にも家族部分を強調した描き方をしていながら(とりわけ3巻範囲では最初に位置するエピソードの14話がああであるにも拘わらず)、例えば21話はその多くで海凪姉妹の関係性が進展したことに終始しており、再婚後における親絡みの新しい二者関係(ひなたさんと一誠さん、ひなたさんと小春、一誠さんとひより)の描写には乏しかった印象が否めません。この辺りの足りなさをもって、エピソード全体に通ずる一貫性はやや弱くなっていると評すべき側面もあります。そういう意味で今回は21話以上に、これまでを総括するに足る回でした。
憶測ですがこのような「現時点での海凪家総括」に当たる展開、うちの先生の事前想定では3巻ラストの回に盛り込まれるハズだったのではないか、という気もしたり。予定よりエピソードを1話増やさざるを得なかったゆえの今回での対応としては大いに考えられるレベルでしょう。今回のエピソードが4巻の2話目に置かれる(と思われる)のはちょっともったいない感。

まあ、改めて書き出したことで分かったように、これらの点はかなり細々とした隙です。特に1つ目は個人的な感覚も混じっているので無視しても問題はないくらい。そしてそもそも21話の時点でだいたい予想できていた範囲に、その隙は収まっていました。各回が非常に濃密でありながら、全体としても1巻と2巻それぞれで手堅すぎるほど磐石だっただけ。その濃さはそのままで今後また大勢にもきっちりフォローを入れてくるだろうと期待はしたいですし、それがよほどやり方を誤っていなければお釣りまで返ってくる可能性も充分あります。
そのことは改めて強調した上で、初見時の違和感を与えたファクターも無視することなく、改めて少し引いた視点から本作の今後を見守りたいところ。

Written on June 24, 2020